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大阪地方裁判所 昭和41年(レ)4号 判決 1967年7月26日

控訴人 長慶由太郎

右訴訟代理人弁護士 深田和之

被控訴人 木村七兵衛

右訴訟代理人弁護士 岡本一太郎

主文

原判決を次のとおり変更する。

控訴人は被控訴人に対し、原判決別紙目録記載の建物を、被控訴人から金四五万円の支払を受けるのと引換えに、かつ、被控訴人が控訴人に対し昭和三八年五月一五日から昭和四〇年一二月一〇日まで一ヶ月金二、五〇〇円の割合による右建物の賃料の支払いを免除することを条件として、明渡せ。

訴訟費用は第一、二審とも控訴人の負担とする。

事実

第一当事者の申立

一、控訴人は、原判決を取消す、被控訴人の請求を棄却する、訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とする、との判決を求めた。

二、被控訴人は、本件控訴を棄却する、訴訟費用は第一、二審とも控訴人の負担とする、との判決を求め、なお当審に至り、請求の趣旨を、「控訴人と被控訴人に対し、原判決別紙目録記載の建物を、被控訴人から金四五万円の支払いを受けるのと引換えに、かつ、被控訴人が控訴人に対し昭和三八年五月一五日から昭和四〇年一二月一〇日まで一ヶ月金二、五〇〇円の割合による右建物の賃料の支払いを免除することを条件として、明渡せ。」とした。

第二当事者の主張

一、被控訴人の請求原因。被控訴人は請求の原因としてつぎのとおりのべた。

(一)  被控訴人は、昭和二七年一月頃、訴外伊藤某から大阪市福島区海老江上一丁目八〇番地木造瓦葺二階建居宅五戸一棟のうち西から二戸目と三戸目の家屋二戸を買受けたが、その前から二戸目を賃借居住していた控訴人は、右伊藤の要求で同人に対し右西から二戸目の階上部分の明渡をしたので、被控訴人は控訴人に対し同階下部分(原判決別紙目録記載の建物。以下本件家屋という。)のみを賃料月二、五〇〇円で、期限の定めなく賃貸してきたものである。

(二)  しかしながら、

(1) 被控訴人側につぎにのべるような自己使用の必要を生じたので、被控訴人は控訴人に対し、昭和四〇年六月七日の原審第八回口頭弁論期日に、右賃貸借契約につき解約申入をなし、右意思表示は即時控訴人に到達した。

(2) 右解約申入の正当事由はつぎのとおりである。

① 本件賃貸借契約には、当分の間だけ賃貸するとの特約があった。

② (解約申入当時の被控訴人利用家屋の状況に至るまでの経緯)

被控訴人は、昭和二七年一月頃、西から二戸目と三戸目の家屋を買受けると同時に、三戸目の家屋階上階下と二戸目の家屋の階上部分(以下、両者を合わせて、被控訴人利用家屋という。)とに、家族七名(被控訴人の妻、長男、その妻、その子三名、次男)と共に居住し、同所でメリヤス衣料品の製造加工販売業を営んで来た。その後、被控訴人は事業運営の必要上、西から二戸目の家屋の二階と三戸目の家屋の境の障壁を取除いて一体とし、且つ、西から三戸目の家屋の内部を改造して、その北方に建増しを行った。更に、近所の福島区海老江上一丁目八一番地に家屋一戸を買受け、被控訴人夫婦と長男の子一名及び住込従業員三名は、右家屋に居住することにした。その後昭和四〇年三月から、被控訴人は、兵庫県出石町に工場を設けて、メリヤス衣料品の操業を開始し、妻長女と共に同所に移り住んだ。その頃、次男元則は結婚して、被控訴人の去った福島区海老江上一丁目八一番地で結婚生活に入った。

③ (解約申入当時の被控訴人家屋の状況)

以上のような次第で、右解約申入当時の被控訴人利用家屋の間取り及び利用状況は、原判決別紙図面(赤斜線部分を除く。)のとおりであった。被控訴人利用建物は、ほとんど全部が事業用に供されている状況であり、建物二階の天井板と屋根との間まで包装容器類等の置場としている実情であった。出石工場設置後は、被控訴人利用家屋における営業(以下大阪営業所と称す。)用の他、出石工場の為の原反・縫糸・ボタン・容器等の材料及び出石工場での製品も被控訴人利用家屋で保管するので益々狭く、大阪営業所の営業にも日常生活にも支障は増大した。つまり長男靖夫夫婦及びその子三名(被控訴人夫婦と前記福島区海老江上一丁目八一番地で同居していた長男の子一名も、被控訴人夫婦が出石町に転出したので、長男夫婦と同居することに成った。)は、二階南西部の六畳の間に寝起きし、狭いし、便所調理場に遠くて不便であり、三人の子供のうち一人は小児マヒ症状にあるので、このような工場の一隅の二階で生活するのは保健衛生上芳しくない。被控訴人の長男次男等が病気になった時病臥の場所がない。従業員の為の更衣室食堂洗濯場は皆無で、従業員の不満が少からず、従業員の補充増員はできない。又被控訴人所有の運搬用大型自動車一台は、一階南表側の約三坪の土間に納置しているが、同所が狭いので工作物を設けて車体の一方を斜上方に浮上がらせなければならず、建物入口が低いので、材料製品を積荷したまま出入ができないので時間がかかる。小型自動車は、納置場所がなく道路上に放置しているので、警察署から再三警告を受けている。以上のような次第であったので、被控訴人は本件家屋の明渡を受け、取敢ず従業員の食堂設備と小型自動車の納置場所を作る考えであった。

被控訴人には右のような自己使用の必要があった。

④ (控訴人側の事情)

一方控訴人側の事情を見るとつぎのとおりであった。本件家屋の間取りは原判決別紙図面赤斜線部分のとおりであって、控訴人は家族六名(妻子供五名)と共に居住している。控訴人は住友金属工業に勤務し、停年を三年後にひかえている位であったから、相当の収入を上げていた。その妻はメリヤス加工の内職をして毎月一万乃至一万二千円の収入を上げ、子供男女各一名も会社に勤務していて生活に困ることはない。控訴人は、本件家屋を専ら住居として利用しており、本件家屋でなければならない理由もない。

⑤ (被控訴人が明渡を求める条件)

被控訴人は正当事由を補強する為、金四五万円の移転料を提供し、且つ昭和三八年五月一五日から昭和四〇年一二月一〇日迄の本件家屋の賃料を免除する。

⑥ (本件をめぐる当事者の態度)

被控訴人は、事態の円満な解決に努力し、昭和三八年初頃、被控訴人所有の小型自動車の納置場所を作る為、その余の部分について無償使用させることを条件に、本件家屋中四畳半の間の明渡を求めたが、控訴人はこれに応じなかった。被控訴人はやむなく、同年五月一五日本件賃貸借契約解約の申入をし、同年一二月一六日大阪簡易裁判所に調停を申立てたが、控訴人の不誠意により不調に終った。被控訴人は、同年六月一七日本訴を提起し、当初は右解約申入に基く無条件の明渡を求めたが、控訴人の立場を考慮して右主張を撤回し、前記の如く移転料の提供と賃料の免除を条件とする解約申入をするに至ったものであった。以上の次第で被控訴人は誠意を示している。

以上当事者双方の利害を比較衡量すれば、被控訴人の本件解約申入には正当事由があるというべきである。

もっとも、昭和四一年八月現在では、被控訴人利用家屋の一階北側倉庫の部分が改造され、従業員用の食堂及び風呂場が設置されたが、従来の食事室は製品置場と化し正当事由の基本的事情は解約申入当時と何等変っていない。控訴人側ではその子一名がその後更に勤務することになり、控訴人家族全員で月収合計一〇万円以上あって、相当な生活をしている。

従って、被控訴人の本件解約申入は、法定期間六ヶ月を経過した昭和四〇年一二月七日限り効力を生じ、本件賃貸借は同日限り終了したものといい得る。仮に、そうでないとしても、本件解約申入の正当事由は当審の口頭弁論終結までに完成している。よって被控訴人は控訴人に対し、金四五万円の移転料の提供と昭和三八年五月一五日から昭和四〇年一二月一〇日迄の本件家屋の賃料の免除を条件とする本件家屋の明渡を求めるため、本訴に及んだ。

二、控訴人は請求原因事実に対する答弁として、つぎのとおりのべた。

(1)  請求原因(一)の事実及び(二)の(1)の事実は認める。請求原因(二)の(2)の①事実は否認する。同②の事実は認める。同③の事実のうち被控訴人利用家屋の間取り及び利用状況が原判決別紙図面(赤斜線部分を除く)のとおりであった事実は認めるが、その余の事実は全て否認する。同④の事実中、本件家屋の間取りが原判決別紙図面赤斜線部分のとおりであり、控訴人は右家屋に家族六名と共に居住し専ら住居として使用している事実、控訴人は住友金属工業に勤務し停年を三年後にひかえている事実、及び子供男女各一名が会社に勤務していた事実は認めるが、其の余の事実は否認する。同⑥の事実のうち調停が控訴人の不誠意により不調に終ったとの事実及び控訴人家族全員の収入が一〇万円以上である事実を否認し、その余の事実を認める。

(2)  被控訴人の本件解約申入には、正当事由が存しないものである。即ち、

① 控訴人は月額約四万円の給料で家族六名と共に生活しているのであって、地代家賃統制令によって統制されている本件家屋に居住してこそ生計が成り立つのである。

② 被控訴人は木村靖名義で(イ)福島区海老江下一丁目二〇番地上木造瓦葺二階建居宅床面積一〇坪一合六勺、二階坪六坪四合九勺、(ロ)福島区海老江上一丁目八〇番地上木造瓦葺二階建居宅床面積七坪五合一勺、二階坪一三坪一合の家屋を、木村元則名義で(ハ)福島区海老江上一丁目八一番地上木造瓦葺二階建居宅床面積一二坪三合三勺、二階坪八坪九勺の家屋を所有しているので、本件家屋の明渡を求めるには及ばないはずである。

③ 出石工場には、現在二〇名近い従業員を擁して事業を営んでおり、大阪営業所では、僅か三名程度の従業員が操業に従事しているに過ぎず、被控訴人の事業の体制は、出石工場に移ったものというべきであって、本件家屋を事業用に供する必要性は失われたものである。

そうすれば、控訴人が本件家屋を明渡すことにより受ける損失は、被控訴人が明渡を受けられないことにより受ける不利益に比べて大なることは明らかである。

従って被控訴人の本件解約申入は正当事由を欠き、その効力を生ずるに由ないものといわなければならない。

第三、証拠 ≪省略≫

理由

一、被控訴人が昭和二七年一月頃、被控訴人主張の経緯を経て、控訴人に対し、本件家屋を賃料月二、五〇〇円で、期限の定めなく賃貸してきたこと及び被控訴人が控訴人に対し昭和四〇年六月七日の原審第八回口頭弁論期日において右賃貸借につき、解約申入をなし右意思表示が即時控訴人に到達した事実は当事者間に争いがない。

しかし被控訴人が金四五万円の移転料の提供と昭和三八年五月一五日から昭和四〇年一二月一〇日までの本件家屋の賃料の支払を免除することを条件とする本件家屋解約の申入をし、右意思表示が控訴人に到達したのは、昭和四〇年一〇月一五日であることが、本件記録上明らかである(被控訴人提出の昭和四〇年一〇月一三日付同日原審受付の請求の趣旨再々訂正書は双方代理人出頭の同月一五日の原審口頭弁論期日に損害金を賃料と訂正の上陳述され、控訴人の原審代理人に交付されていることが記録上明らかである。)

二、それで本件についての解約申入につき正当事由が存したか否かについて右昭和四〇年一〇月一五日の解約申入について判断する。

(一)  まず被控訴人側の事情を見るに、

本件全証拠によるも、本件賃貸借が当分の間だけという特約があったとの被控訴人の主張を認めるに足る証拠はない。被控訴人は、昭和二七年一月頃、被控訴人利用家屋を買受けると同時に、家族七名と共に同所に移り住み、メリヤス衣料品の製造加工販売業を営んできたこと、その後、被控訴人は事業の運営の必要上二階の障壁を取りはずして一体とし、更に近所の海老江上一丁目八一番地に家屋一戸を買受け、被控訴人夫婦と長男の子一名住込従業員三名が右家屋に移り住み、その後、昭和四〇年三月から被控訴人は出石町に工場に設け、妻長女と共に移住したこと、そして、その頃次男元則は結婚して、被控訴人の去った海老江上一丁目八一番地の家屋に住むことに成った事実及び以上のような経緯で昭和四〇年六月七日頃の被控訴人利用家屋の間取り並びに利用状況が原判決別紙図面(赤斜線部分を除く)のとおりであった事実は当事者間に争いがない。

≪証拠省略≫を総合するとつぎの事実を認めることができる。即ち、被控訴人のメリヤス製造販売業はいわゆる見込生産であって、得意先の発注によって、何時でも出荷できるように商品をストックする必要があり、いたるところ、原料製品が置かれており、ほとんど全部が事業用に使用されており建物二階の天井板と屋根との間にも物置を作っている。出石工場設置後は、同工場用の原料・同工場での製品も持ちこまれることになったので益々狭くなった。被控訴人の長男夫婦その子三名は、二階南西部の六畳の間に寝起きしているが、子供一名は小児マヒ症状であるが、階上部分には便所台所もなく困却している。従業員の補充増員は困難で、職業安定所で紹介を受けても、短期間で辞めて行く実情であった。大型自動車は一階南表側の約三坪の土間に納置されているが、二畳の間にまではみ出している。≪証拠省略≫によると、被控訴人は小型自動車の納置場所がなく、道路上に駐車して警察署から再三警告を受けた事実が認められる。更に前記証拠によると、被控訴人が控訴人主張の(イ)(ロ)(ハ)の家屋を所有しているが、(イ)の家屋は金三五〇万円の借金弁済資金捻出のため昭和三七・八年頃から売りに出されていたが、いまだに買手がつかず、空家のまま倉庫として利用されており、(ロ)の家屋は被控訴人利用家屋の北側に増築された家屋であり、(ハ)の家屋は前記次男元則が使用している建物である事実が認められる。

右認定を覆えすに足る証拠はない。

ところで≪証拠省略≫によると、被控訴人は階下北側の倉庫をその後改良し従業員食事室及び風呂場を設置している事実が認められるが、かかる改良が本件解約申入の法定期間経過前のものか経過後のものかについてはこれを認めるに足る証拠はない。右認定を覆えすに足る証拠はない。

(二)  つぎに控訴人側の事情を見ると、

本件家屋の間取りが原判決別紙図面赤斜線部分のとおりであって、控訴人は家族六名と共に居住し専ら住居として使用していることは、当事者間に争いがない。≪証拠省略≫によると、控訴人は、昭和二一年から住友金属に勤務したが、昭和四〇年頃の右会社における月給は四万七・八千円の手取りで、ほかに七月と一二月の二回それぞれ四万七・八千円から五万円のボーナスを支給されていたこと、控訴人の妻は内職をして、毎月五乃至六千円から七乃至八千円の収入を上げていたこと、長男は工員で月一八、〇〇〇円の給料、長女は事務員で月一五、〇〇〇円の給料を取っている事実が認められる。

右認定を覆えすに足る証拠はない。

(三)  被控訴人控訴人間の調停が控訴人の不誠意の故に不調に終ったと認めるに足る証拠はない。被控訴人が本件をめぐる当事者間の態度として主張しているその余の事実は、当事者間に争いがない。

(四)  そこで、被控訴人側及び控訴人側の右各事情を比較検討する。被控訴人は、長男次男が病気になったとき病臥の場所がないことを主張しているが、両人等が特に虚弱な体質でしばしば病床に伏するものであれば格別、かかる主張立証のない本件の場合においては、このような一般的危惧をもって、正当事由の基礎資料となすことはできない。被控訴人は問題の解決に努力したが、控訴人がこれに応じなかったことを、正当事由の基礎として主張している。賃貸借はいわゆる継続的契約関係として信義則の支配する領域であるから、当事者に信義則に反する行為があるならば、それも正当事由の判断資料と成り得るものと解すべきである。本件についてこれを見るに、被控訴人は被控訴人利用部分の利用条件の改善に努力し、改築増築、新規家屋の購入等行っていることは前認定のとおりであるが、調停が控訴人の不誠意の故に不調に終ったとは認められないこと前認定のとおりであり、且つ昭和三八年初頃、控訴人が被控訴人の四畳半の間の明渡の請求に応じなかったことも、本件家屋に家族六名と共に居住していた控訴人としては、もっともなことであって、到底信義則違反とはいえない。従って、被控訴人主張の右事情も、正当事由の存否の判断の基礎とすることはできない。

しかしながら、被控訴人利用建物部分は、ほとんどが事業用に供されていて、屋根裏迄物置としている有様であり、従業員の厚生設備も充分でない上、被控訴人の長男の子供一名は小児マヒ症状にあって、便所台所のない階上での生活は妥当ではない。又出石町工場の設置後は一層、狭隘になったことも前認定のとおりである。結局、被控訴人利用建物は事業の発展に伴い、改善したが及ばず、事業にも日常生活にも支障をきたし、本件家屋の明渡を求める必要性は大であるということができる。被控訴人は、被控訴人利用建物の北側倉庫部分であったところを改造し、従業員用の食堂及び、風呂場を設置している事実が認められること、かかる改良が本件解約申入の法定期間経過前のものか経過後のものであるかについては証拠がないこと前認定のとおりである。ところで正当事由の存否の判断は解約申入期間内の事実にもとづいて判断すべきものであって、その後の事情を考慮して判断してはならないものである(最高昭二八・四・九判決。最高民集七・四・二九四参照。)従って右改良が法定期間経過後に発生したものであれば、右事実の故に正当事由が消滅するに至る訳はなく、又仮りに右改良が法定期間経過前に発生していたとしても、被控訴人の明渡を求める必要性は前記諸事情を考慮すると依然存在すると解するのが相当である。これに反し、控訴人は、専ら本件家屋を居住用として使用していること当事者間に争いのない事実であるから、賃料一ヶ月金二、五〇〇円の本件家屋を移転した場合に考えられる経済的負担を補うことができるのならば控訴人は本件家屋に執着する必要性はないものといわなければならない。しかして被控訴人は金四五万円の移転料の提供と昭和三八年五月一八日から昭和四〇年一二月一〇日までの賃料の免除を条件としている。従って控訴人は金四五万円の移転料と免除された賃料(原審での被控訴人本人尋問の結果によると控訴人は大部分これを供託している事実が認められ、右認定を左右するに足る証拠はない。)を運用することによって、右経済的負担を補うことができるものと考えられる。

以上の次第であるから、被控訴人が本件建物を使用すべき必要性は、控訴人のそれを凌駕するもので、解約申入につき正当事由があり、昭和四〇年一〇月一五日以降六月間正当事由は継続していたことが認められる。

三、従って、本件賃貸借契約は、右解約申入から六月を経過した昭和四一年四月一五日限り終了したものというべきであって、控訴人に対し、原判決別紙目録記載の建物を、被控訴人から金四五万円の支払を受けるのと引換えに、かつ被控訴人が控訴人に対し昭和三八年五月一五日から昭和四〇年一二月一〇日まで一ヶ月金二、五〇〇円の割合による右建物の賃料の支払いを免除することを条件として、明渡しを求める被控訴人の本訴請求は正当であるからこれを認容し、主文を異にする原判決はこれを変更することにし、民訴法第九六条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 岡部重信 裁判官 三好吉忠 宮良允通)

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